B:黄竜の使徒 ナウル
イシュガルド教皇庁からの協力要請で、数体のドラゴン族が「リスキーモブ」に指定されたわ。「ナウル」も、その一体というわけね。黄竜「スヴァラ」とともにスチールヴィジルを襲い、あの要塞を廃墟に変えたと言えば、危険さは解るかしら?
名門「アインハルト家」の三男も、奴に焼き殺されたそうよ。
~グランドカンパニーの手配書
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ショートショートエオルゼア冒険譚
「しまった!!」
あたしは覚悟を決めて、これから襲って来るだろう鉄をも溶かす圧倒的で強烈な炎に備えて身構えた。
不覚だった。
この飛竜にもうそこまでの機動力と余力がのこっているとは思っていなかったのだ。
イシュガルドを護る4塔の一つ「スチールヴィジル」と呼ばれる堅牢な対竜要塞を一夜で廃墟とした黄竜「スヴィラ」の眷属であるこの飛竜は決して強い相手ではなかった。
確かに超高熱のブレスは強烈で簡単に鉄を熔解させるほどだから要注意ではあったが、それはブレスが広い範囲を焼く拡散型ではなく、一点に集中させ超高温により破壊するタイプのブレスであるためで、当たれば痛いが避けやすいという性質のものだった。
また、そもそも飛竜の類は得てして細身の体に大きな翼をしているのだが、その細身の体には長時間戦えるほどのスタミナがない。攻撃を躱しながら少しずつ体力を削り、疲れて動きが鈍くなったところを集中攻撃すればいい。セオリー通りに事を進め、あとはとどめを刺すだけというつもりでいたのだ。慢心したあたしは気を抜いてしまい、仲間の呼びかけに答えようと一瞬奴から目を離してしまった。完全にあたしの不覚だった。
もう飛ぶことも叶わず地面に伏せ、息も絶え絶えだった飛竜は最後の力を振り絞って羽ばたくと宙に舞い上がり、至近距離でブレスを吐きかけようと喉を膨らませる。開いた口の奥が、紅く、白く光る。
「ここで死ぬんだ‥。」
そんなことをしても超高温のブレスの威力は軽減できない事は分かっているが、あたしは本能的に頭を抱える姿勢をとり、身を縮めて強く目を瞑った。
その瞬間、フゴオオオオオオオオゥという轟音があたしを包み、身を焼くような猛烈な熱さの風が吹きつける…。
「ん?」
予想していたほどの熱さは感じない。熱すぎて感覚が追い付かないのだろうか‥。それとも熱さを感じる間もなく体が解けてしまったのだろうか。
あたしは恐々目を開けた。するとあたしの前で手足を大の字に広げ、盾となり炎を防いでくれている人影が見えた。
「え?」
あたしは目を疑った。その瞬間吹き付けていた炎が止んだ。人影の向こう、光の中で相方が飛竜の首を切断する姿が見えた。
誰かに庇われた?誰に?
そのままの姿勢で煙を上げながらゆっくり倒れ込む黒焦げの人を後ろから抱きかかえる。まだやけどするほど熱く熱せられた名門貴族アインハルト家の紋章が入った鎧が目に入った。
「アインハルト様⁉」
あたしは素っ頓狂な声を上げた。あたしを守ったのは今回の討伐に強引について来たイシュガルドの名門家の貴族アインハルト氏だった。
彼には3人の息子がいたが、竜詩戦争で2人の息子を亡くし、最後に残った3男も兄の仇を討つためスチールヴィジルの防衛戦に臨み、この飛竜に焼き殺されてしまった。
飛竜を倒すためにアインハルト氏は手を尽くしたが、もう年齢的にも自分では飛竜を倒すことはできないと悟ったという。
だが、それでもせめて息子たちの仇討ちを見届けたいのだといって迷惑がるあたし達を無視して半ば強引について来たのだ。
「アインハルト様、…なんで?」
あたしはアインハルトの上半身を正座した膝の上に乗せて揺さぶった。黒焦げになりどこがどの顔のパーツなのかすら分からないほど炭化してしまった顔で、口らしい場所から掠れるような声を漏らして何か言った。息が漏れる程度の声をあたしは聞き取ろうと必死になって耳を寄せた。
「これで…これで、ようやく息子たちに顔向けできる…、仇討を他人の手に委ねたのではなく、私自身、仇討のため命を賭して戦ったのだと…話せる…。ありがとう‥‥」
それだけ言うとアインハルト氏の体から力が抜け落ちた。